簡易なD/AコンバータとしてR-2Rラダー抵抗回路があるが、ちょっと面白い(当たり前といえば当たり前な)特性があり、出力電圧の減衰や増幅を行いたいとき、その特性を活用すると部品点数を減らしつつ、オフセットなどの望ましくない特性を改善することができる。その考え方と手法を紹介する。
R-2Rラダー抵抗回路の振り返り
抵抗ストリング
デジタル入力のH/Lをアナログ電圧出力に変換するためには、最も簡単な思考では以下の回路となる。
この回路方式は分圧回路の組み合わせのため思考としては解りやすいものの、上記の場合は2ビット分の変換分解能しか持たない。2ビットのバイナリを1つ1つのスイッチのON/OFFに割り付ける。22=4 のため2ビットを表すのに必要な抵抗器の数も4となる。8ビットなら28=256 、16ビットならなんと216=65,536個も抵抗器が必要になる。
R-2Rラダー抵抗
ビット数に応じ指数的に増える抵抗器は扱いにくいため工夫した回路が以下となる。
同じ2ビットだと、抵抗器の数も同じ4個だが、ストリングは2nで増加する抵抗器はラダーだとx2 で増加するため、8ビット以上の多ビットでそのメリットが享受できる。
R-2Rラダー抵抗の特徴
例えば、以下のような回路の出力電圧がいつくになるか?と問われたとき、すぐに分かるだろうか?
回路の特徴を理解すると、出力に抵抗器があるときは、無いときと比べ1/5になることがひと目で判るようになる。
鳳・テブナンの定理
ラダー抵抗回路の特徴を説明するためには鳳・テブナンの定理(以下テブナンの定理)理解が必要である。
この定理は 、
- 図3の抵抗2.5kΩを開放したときの電圧
- 図3の抵抗2.5kΩを開放したときの回路インピーダンス(抵抗)
の2つを求めると、開放電圧に回路インピーダンスと抵抗2.5kΩを加算した等価回路で表すことができる。
開放電圧の計算
これは単純に抵抗2.5kΩを取り外したときの出力電圧となる。入力のデジタルコードをD、分解能をX、電源電圧をVとすると、出力電圧VOは

例えば、D=2、X=4、V=5 とすると、VO=2.5となり、V=5Vのときの全パターン出力VOは表1のようになる。
D | VO |
---|---|
0 | 0 |
1 | 1.25 |
2 | 2.5 |
3 | 3.75 |
開放インピーダンスの計算
ちょっと複雑になるが、テブナンの場合電圧源を短絡として考え出力端のインピーダンスを計算する。図3と同じく2ビットの回路の場合、電圧源の接続は以下表1のように4パターンの組み合わせがある。
SW1 | SW2 | 上位電圧 | 下位電圧 |
---|---|---|---|
3 | 3 | 5V | 5V |
3 | 1 | 5V | 0V |
1 | 3 | 0V | 5V |
1 | 1 | 0V | 0V |
しかしここで、2.5kを開放したときのインピーダンスを求めるため電圧源をすべて短絡すると、以下図4~図6のようになる。



結論として、R-2Rラダー抵抗の回路インピーダンスは、R=10kΩ、2R=20kΩのとき、10kΩとなる。
ここで図4を見ると、開放電圧は2ビットのデジタル値によって変化はするものの、どの入力の組み合わせでも回路インピーダンスは10kΩ一定となる。そのため、出力端に2.5kΩがついていると、入力電圧を10kΩと2.5kΩで分圧した値が出力電圧になることがわかる。
分圧電圧VOは、開放電圧をVとし回路インピーダンスをZ、出力側の抵抗をROと置くと、式2で表せる。

V=2.5V(デジタルで0b10)、Z=10kΩ、RO=2.5kΩを代入するとVO=0.5Vとなる。
V=2.5V(デジタルで0b10)、Z=10kΩ、RO=∞Ωは表1のときにVO=2.5Vであったので、VOは1/5になっている。
何が解ったのか?
ここで分かったことは、電子回路の教科書でよく目にするR-2Rラダー抵抗によるD/A変換回路の出力インピーダンスはRと等しいということだ。このことを理解していると、以下のような回路は冗長さがあることに気づくだろう。

多分、D/Aの出力電圧を低減したかったのだろう。しかし、次段の回路のインピーダンスにより、出力電圧が正しく出力されなかったのでOPアンプをD/A出力のインピーダンス変換と、分圧回路のインピーダンス変換に使用している。
しかし、上記理論から以下の回路でも同じ電圧が出力されることが解る。

応用例
いくつかの応用例が考えられる。
他にも応用例は多くある。
まとめ
鳳・テブナンの定理は、今回のようにある回路の内部インピーダンスを明らかにする事ができる。
いろいろな公式や定理を学校で学ぶが、それが実務としてどのようにつながるのか見い出せると応用できる範囲が格段にひろがり、定理の本質に近づくことができる。
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